LSE修士課程での1年間:困難・解決策・試行錯誤②

LSE修士課程での1年間:困難・解決策・試行錯誤①に関してはこちらからご覧いただけます。

大学のテラスより(建設中の建物は、在学中夏休みに竣工)

3: 実際のコース受講経験と自己流の適応方法

 さて、無事履修登録が終わり、コースが本格的に始まりました。ここでは、その際の率直な感想と私がどのように「適応」し、乗り切ったのかについて、書いてみたいと思います。まず、2週間ほどして、課題文献をやはり読みきれないという現実に直面しました。そこで戦略を変えて、すべての文献を詳細に読むことから、1つの文献を詳細に読むことと、課題文献全体で一貫するテーマは何か、中心的な議論のみに着目して残りの文献をざっと目を通す程度にしました(例えば一つの論文に1時間や2時間と先に時間を決めてdiscussion questionにその論文でリスポンスするなら、と頭の中でシュミレーションしながら読みました。言うは易く行うは難しで、留学終了から1年以上経った現在でも訓練中です)。セミナーのディスカッションでは、できる限り初めに発言すること、また議論が硬直してきた頃に関連する疑問(素朴でもよい)を投げかけることを意識していました。とはいえ、歴史の授業、それもアメリカの文化の歴史で、アメリカ人が多いコースでは、ゼミの議論で目立った貢献がほとんどできず、悔しい思いをしました。

 一方で、教授のオフィスアワーを頻繁に使い、授業のテーマや研究に関して、教授と個別でディスカッションをできたことは、大きな自信に繋がりました。LSEでは、オフィスアワーは一週間に15分程度で完全予約制なのですが、15分だとなかなか落ち着いて話せません。しかし、逆に15分だから話す内容が少なくてもなんとかなるだろう、せっかく高額な授業料を取っているのだから元を取ろうと自分を鼓舞し、月に2回ほどは、(複数の教授に対して)オフィスアワーを利用していたと思います(利用頻度としては多いほうだと思います)。その際には、授業の話だけでなく、自身の研究(当時、休学していた京都大学の研究科の紀要論文を英語で執筆していました)の話をして、関連する分野の教授をLSE外にもメールで紹介してもらうこともありました。先生によっては、15分と言わずに30分、特には50分ほど、時間を取ってくれる方もいて、最も充実した時間の1つでした。抽選や履修時間の関係で受講できなかったコースの先生にも、アポを取れ、研究アドバイスもいただけました。数名のLSEの教授とは、帰国後もメールでやり取りをしていて、LSE留学の一番の財産になりました。

 ライティングについても、ノンネイティブで帰国子女でもない私は、苦労しました。これについては、大学のサービスを使い倒すことで対応しました。LSE Lifeという学生向けのサービス全般を運営している部署があり、私は毎週30分の英語の指導をネイティブに受けられるサービスを頻繁に利用しました。上述の自分の投稿論文の添削や、各コースの期末レポート、修論の添削を中心に利用しました。あまりにも使い倒しすぎて、担当者や事務の方に顔と名前を覚えられ、1学期目は週3〜4で利用するので、使いすぎだと、週2回にしてほしいと言わたほどです。また大学が無料で提供していたAcademic Englishの授業(例えばこちら)も受けました。ここでは、エッセーの書き方(ストラクチャー、パラグラフ、センテンスのそれぞれのレベル)、論文でよく使うコロケーションや表現について、そして筆記試験のシュミレーションも行いました。普段のコースワークだけでも多忙でしたが、とにかく利用できるものは利用しようという精神で、受講していました。結果としては、自分の英文を見てもらう人が、自然と増え、期末レポート執筆や修論執筆の際には、非常に助かりました。最後に、英語の流暢さの問題で評価を落としたくなかったため、やむなく成績に関係する期末レポートと修論には、外部の英語添削サービスも利用しました。こちらを利用しました。こちらは、最低限の文法・語彙を見てくれる感じで、たまに専門用語や人物名など誤った「修正」も含まれるので、修正提案を一つずつ確認する必要がありました。より確実な添削には、より専門の近い方にお願いするなどが考えられそうです。その際には、大学が設定する料金体系などを参考に価格の交渉をするといいと思いますが、修士課程のレベルではそこまでは必要がないかもしれません。ちなみに、私の修論では、英語が少し不自然であることは1人のRefereeに指摘されましたが、それでもしっかり内容面で評価をいただけました。また英語での学術論文執筆については、主に中堅・若手の歴史研究者の体験談を聞くセミナーを主宰しておりますので、ご関心があればご参加ください(過去セミナー例)。

4: 大学外でのまなび

 大学キャンパスだけが、留学の学びの場であるとは限りません。特に、留学に行く場合は、通学中の景色やふと耳に入る現地の人の会話なども、広い意味では学びになりえます。とりわけ、私が、ロンドンに留学していた時に、積極的に活用しようと考えていた場が、美術館や博物館です。ロンドンはこうした文化施設の宝庫であり、週末や授業がない平日には、余裕があれば美術館や博物館に足を伸ばすように意識していました。また、街自体が歴史であり、とりわけ私が好きなブルームズベリー・スクウェアー周辺(LSEやUniversity College London、大英博物館などの周辺)は、20世紀初頭に文化人が行き来し、夜な夜なアカデミック議論を交わしていた場所です。このスクウェアにちなんだホテルでアフタヌーン・ティーを嗜んだり、マルクスも通ったとされるパブで友人と飲んだりした時間は、単調になりやすい多忙な修士生活にいいアクセントをもたらしてくれました。

 また、これは私が獲得していた「トビタテ留学JAPAN!」という奨学金の給付規定でもあったのですが、現地の組織で働く経験をしました。それもせっかくならということで、2つの組織で同時にインターンを行い、修論提出間近の8月中旬から9月末まで「フルタイム」で働きました。一つは、アジアの政治経済を扱ったシンクタンク系組織Asia Houseで、もう一つは、日本の学術・文化・政治経済に関する発信などを行う日系の財団(現地法人)大和日英基金でした。前者は、自分が日本人一人という環境で「海外で働くとはこんな感覚なのか」と疑似体験できました。後者では、日本人の方が複数働かれていたので、客観的に「海外で働く日本人はこのように働くのか」と参考になりました。私の研究対象が、シンクタンクや財団であるだけに、実体験としてそうした組織(しかもそうした組織の本場英国で)で働けたことは、研究のいい刺激にもなりました。

5: まとめ: 「自家製ダブルディグリー」の良し悪し

 ここまでご覧になっていただいた読者の皆さん、はたまたこれまでの米国大学院学生会の記事①記事②から通読頂いた方、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。まとめとして、日英の「自家製ダブルディグリー」について、私の感想を書いて、筆を置きたいと思います。

 まず、何よりよかったことは、自分の思う存分研究や大学での学びを探究できることです。私のようにアカデミアに進むのか、就職するのか、最後まで優柔不断な人間にとっては、英国留学が修了してもまだ時間があるのは、英国での1年を完全に研究に費やすことに集中することを可能にしてくれ、自分にとっては満足いく時間となりました(もちろん「自家製」なので、大学の制度で予め規定されたダブルディグリーではないため、満足がいくタイミングで退学をすれば、好きなタイミングで就職などへ進路を切り替えることもできるでしょう)。

 結局、英国から帰国後、本記事の表題にもあるように、現在は、京都大学で2つ目の修士課程の修了を目指して研究を進め、最終的には、博士課程へと進もうとしています。京都大学人間・環境学研究科博士課程に進学予定ですが、その進学にあたり、「思わぬ」メリットもありました。博士課程の研究支援の枠組みである学術振興会のDC(修士課程2年次の応募の場合はDC1)という制度があるのですが、そちらへの応募の際に、英国の修士号を獲得していることが、「実績」として評価される可能性があるというメリットです。アカデミック・キャリアとして、「国内修士=>海外修士,海外博士」の順番での学位の取得は比較的一般的となりつつありますが、私のように「海外修士=>国内修士=>国内博士」のキャリアを踏んだ場合は、国内修士2年と比較した1年分修士の期間は伸びるものの、その分「国内修士=>国内博士」と進む際に、「海外修士」での学びに基づいて博士課程での研究計画を練ることができました。

 最後に、アカデミアに進むにせよ、就職にせよ、各人に応じた経験の積み方があると思います。先輩方のキャリアの歩み方が参考になることもあれば、自分でその時々で選択肢を洗い出して決断していく瞬間にも直面するかもしれません。私の場合は、複数のLSEをはじめとした英国修士課程を歩まれた方々のお話を参考にしつつ、自身の関心を最大限広げられる選択肢を常に考えていました。時には一般的なキャリアから脱線することからの不安や戸惑いも伴いますが、今のところは何とかなっています。こう書くと無責任な結論にはなってしまいますが、それでもこうした経験の積み方をした人もいるんだという、事例の一つとしてこれまでの記事が少しでもお役に経っていれば、幸いです。また、何かご要望があれば、筆を取りたいと思います。今年度の留学は、コロナ禍の元、昨年度に引き続き「異例」の留学経験となりますが、みなさんがご健康に実りある留学体験をなされることをお祈り申し上げます。

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