オックスフォード大学院・移民研究修士課程での一学期を振り返る② コースメイトたち

はじめに

 帰国して5日が経過し、時差ボケも治りつつある。大好きな鮮魚を久々に食べることができて、少しずつ疲労も回復してきた。この記事では、私が在籍しているオックスフォード大学院・移民研究修士課程での1学期を振り返る。学びの内容を全般的に振り返った前回の記事に引き続き、この記事では同じコースの学生たちの全体像を紹介し、彼らとの交流を振り返る。

2021年卒業の学生たち

1. 国籍

 私のコースの学生たちについて、簡単に情報をまとめよう。まず、国籍についてだが、このコースには合計で25人の学生が在籍しているものの、イギリス人は7人にすぎない。すなわち、18人の学生はイギリス以外の国籍を持つ留学生であり、換言すれば広義の移民である。移住について学ぶこのコースにとって、これ以上ふさわしい環境はあるだろうか。ディスカッションでは、学生が講義で学んだ理論と出身国の事情を結びつけて語ることが多いので、議論に深みが出やすい。オックスフォードという一つの文化的あるいは知的なヘゲモニーにおいて、こうした多様で健康的な言論空間が広がっていることは幸運かもしれないし、あるいはヘゲモニーだからこそ世界中の学生を引き込み、多様性を確保できているのかもしれない。

坂口安吾は同じ女性を慕っていた中原中也に「やいヘゲモニー」と罵倒されたことがあるらしい。

 学生の国籍を地域別に分類して人数順に並べると、以下のようになる。ただし、これから紹介する内容は必ずしも全て正確ではない。データの集計に使ったのは、コースが始まる前にメールで届いた学生のプロフィール・リストだが、そこになかった情報は学生との日常的な会話から補っている。しかし、国籍に関してはしばしば複雑な事情を抱えている学生もいるので、必ずしも上記の方法で全てを把握できているとはかぎらない。なお、二重国籍を持っている学生に関しては、それぞれの国籍について0.5人としてカウントしている。

1. ヨーロッパ・・・12人 (イギリス8、スウェーデン2、ロシア・イタリア・フランス1)

2. アジア・・・8人 (日本3、中国2、韓国・シンガポール・パキスタン1)

3. 北米・・・2人 (アメリカ2)

4. 中南米・・・1.5人 (グアテマラ1, キューバ0.5)

5. アフリカ・・・1人 (ザンビア)

6. 中東・・・0.5人 (シリア)

7. オセアニア・・・0人

合計・・・6地域15ヶ国25人

 以上より、学生の出身国は多様だと分かる。地域別に見ると、ほぼ半数がヨーロッパ出身であり、その次にアジアが3分の1近くを占め、残りは少数の他地域の出身者である。なお、オセアニア出身の学生はいない。また、中国人留学生がアジア出身者の大半を占めるオックスフォードでは珍しく、このコースのアジア出身者では日本人が3人で最多である。他の学生と雑談していても、日本人が3人もいるのは珍しいねと言われることがある。

 しかし、発展途上国出身の学生が予想より少なかったのも事実である。このコースは開発学部が運営に携わっていることもあり、発展途上国の学生が少なからず各種の奨学金を得て入学してくるものだと思っていたが、実際は先進国の学生が多くを占めていた。もちろん、学生の出身国を発展の具合に応じて考えることの意味を否定する立場は理解できるが、移民研究において送出国と受入国双方の文脈を理解できることは非常に有益だと考えているので(注)、この偏りは少しばかり残念である。

2. 出身大学・学習言語

 学部時代の大学の所在地を見ると、大多数の学生が英語圏の学部からオックスフォードに来ていることが分かる。英語圏の大学に通っていた学生の数は合計19人で、内訳はイギリス10人、アメリカ8人、カナダ1人である。しかも、いわゆる名門校を卒業した学生も少なくない。具体的には、イギリスならOxford・Cambridgeが2人ずつ(逆に言うとOxfordからの内部進学者は非常に少ない)、アメリカならHarvard・Columbia・UC Berkeley・Brown・NYU・Wesleyanが各1名である。非英語圏の大学を卒業した学生は合計6人で、日本とUAEが2人ずつ、パキスタンと香港で1人ずつである。しかし、彼らも英語で学ぶプログラムを卒業しているので、非英語圏の大学で非英語で学ぶプログラムを卒業しているのは恐らく私だけである。非英語のプログラムを卒業した学生が非常に少ない理由は、オックスフォードが出願時に高い語学スコアを要求していることにあるだろう。

 したがって、私は語学の問題に非常に苦しめられている。ディスカッションでは会話の流れに付いていくのに精一杯で、私だけが拙い英語を話している事実に疎外感を覚えることもある。もっとも、最近は上手に喋れない自分を素直に受け入れることができるようになったので、虚心坦懐に英語の練習を重ねている。ディスカッションでは文法ミスを繰り返す歯がゆさに耐えながらとりあえず意見を述べ、帰宅してから言いたかったことを正しい文法で言えるようになるまで一人で練習している。つまり、最初のデートで緊張のあまり口下手になってしまった少年のような毎日を過ごしているのである。

3. 学問的背景

 学生が学部時代に専攻していた分野は、社会科学系が半数弱を占めており、残りは人文学系とその他の分野が同数を占めている。2つの分野を専攻していた学生に関しては、それぞれの専攻において0.5人として計上した。詳細は以下の通りである。

○社会科学系・・・12人 (政治学3、社会学・国際関係2.5、人類学・経済学2)

○人文学系・・・6.5人 (歴史学2.5、文学2、外国語1.5、言語学0.5)

○分類不能・・・6.5人 (地理学3, ビジネス2, その他1.5)

 以上のとおり、このコースには必ずしも移民研究に直結しない分野を専攻していた学生も一定数いることが分かる。ただし、そのような学生も、ほとんどがNGOでのボランティアや国際機関でのインターンを通じて移民に関連する実務経験を積んでいるので、移民研究と縁のなかった学生は誰もいないだろう。

4. その他: ジェンダー・勤務経験・修士号

 最後に、学生のジェンダー比率、勤務経験、修士号の有無について簡単に触れておく。まず、学生のジェンダー比率は男性10人に対して女性15人と2:3である。教員によると、理由は不明だがこのコースの学生は女性の方が多くなる傾向にあるらしい。続いて、過去にフルタイムでの勤務経験(インターンを除く)がある学生は、25人中5人である。そのうち2人は国際機関でローカルスタッフやコンサルタントとして移民関係の実務に就いた経験がある。このプログラムは修士課程なので、過去に実務経験のある学生よりも、これから実務に就きたい学生が集まる傾向にあるものと考えられる。最後に、他の大学で修士号を取得している学生は1人である。イギリスの修士課程は1年間で終わる場合が多く、博士課程に進学する前に2つ修士号を取る学生もちらほらいるようだが、このコースではカナダで修士号を取った学生が1人いるだけである。

コースメイトとの交流

 今年はコロナの影響で学生同士の交流にもかなりの制約が課されているが、学生たちは交流の機会をできる限り作ろうとしている。まず、学生が所属しているWhatsApp(LINEのようなもの)のグループチャットに誰かがメッセージを書いて、パブや公園で集まることがある。ただし、私を含めて多くの学生にとって、セミナーが最も重要な交流の機会である。前回の記事でも述べたように、このコースの必修科目は全員が受講するオンライン講義と、8人前後のセミナーにおける対面形式のディスカッションとで構成されている。セミナーのメンバーは決まっていて、社会調査法とその他の3科目とで別々に分かれている。前者は週1回しか顔を合わせないのに対し、後者は週3回か4回なので学生同士の仲が深まりやすい。

 私は後者のセミナーを大変気に入っている。ディスカッションがたまたま午前に集中しているので、終了後に皆で昼食を取りつつ研究や生活について話すことが自然と多く、教室の中と外を問わず打ち解けた雰囲気になっている。また、同じセミナーの学生の親切さには感服することも多い。私は英語の校正を誰かに時々お願いしなければならないが、皆は私と同様に忙しいにも関わらず、快く引き受けようとしてくれる。

 また、教員たちも学生同士の交流を積極的に支援している。このコースでは、今年から「スタディ・バディ」というシステムを試験的に導入している。このシステムは、学生が毎週異なる学生とペアを組むことで、授業や課題の内容に関して気軽に話せるようにしつつ、なるべく多くの学生と面識を得ることもできるというものである。必ずしも多くの学生がこのシステムを自主的に活用しているとは思えないものの、ペアの学生とあらかじめ話し合う必要のあるイベントが時々あるので、結果的には学生同士の交流を促している。他にも、学期中に教員も含めたオンライン・パーティがZoom上で一度催されたが、正直あまり楽しくなかった。1時間半ほどのパーティの最中に、教員1人と学生4人とのブレイクアウト・ルームに2回廻されたのだが、どうしても教授が1対1で学生と順番に話さざるをえないので、まるでディスカッションのようになってしまった。特に居心地が悪かったのは、ケンブリッジ出身の教員がケンブリッジ出身の学生を相手にした途端に会話が弾みだして、2人で「ケンブリッジは特別な場所ですよね」「私もそう思うよ」と盛り上がっていたことだった。

 以上、コースメイトの情報をまとめ、彼らとの交流についても述べた。仮に今年パンデミックがなかったら、どのような学生生活が待っていたのだろうと想像しないこともないが、今をどのように有益に過ごすのかを考えた方がよほど生産的である。

(注) 移民研究では20年近く前から「方法論的国家主義(methodological nationalism)」(Wimmer and Glick Schiller 2002)といって、国家を分析上の自明な単位として扱うことへの警鐘が鳴らされているものの、国内・国際移住における国家の役割は依然として重要だと私は感じている。

 

 

 

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