大学在学中にIELTS Overall 8.0を取得する方法(後編)—— オックスフォード・ケンブリッジ・LSE修士課程(社会学・人類学分野)の出願記録⑥ 語学試験

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 今岡哲哉です。筆不精がたたって、語学試験でスコアを取る方法を紹介する記事の前編を書いたきり、3ヶ月も更新を怠ってしまいました。その間、8月にビザ申請を出して、9月の半ばにビザの付いたパスポートが返ってきました。ビザの証明写真を見て、自分の顔がいつもどおり囚人さながらの非道な人相になっているのを確かめた時には、もう秋風が吹き始めていました。後編となる今回の記事では、前編のように語学試験の対策法をマニュアル式に書くのではなく、私が大学生活の4年間を通じて、長期の交換留学を経ずに英語の運用能力を磨いた体験談を共有します。内容は非常に個人的ですので、京大生・同志社生以外には、あまり参考にならないことも多いと思いますが、ご了承ください。

大学院留学、周りは交換留学経験者ばかり

 私がこの記事でお伝えしたいのは、交換留学をしなくても英語力は磨けるという一点です。大学院留学を希望する多くの学生は、語学試験で志望校の要求するスコアを満たせないことを理由に、最終的に出願を断念してしまうはずです。例えば、大学3年になってから大学院受験を検討しはじめたとして、TOEFL iBTで100点や110点が必要になった場合でも、当初のスコアが目標より30点も低ければ出願は大幅に停滞し、出願の結果が出にくくなるでしょう。また、慌てて語学試験の対策に乗り出したとしても、語学学校に高額の授業料を支払うわけにもいかず、途方に暮れて出願を断念してしまうことは多々あるのではないでしょうか。

 語学力の問題を回避する一つ手段が、学部在学中の交換留学です。一般化できるかは分かりませんが、周りで大学院留学を実現した学生を見ていると、おおむね学部在学中に半年から一年ほど英語圏(もしくは英語を使用するプログラム)に交換留学を経験しています。たしかに、英語圏への交換留学は語学の運用能力を一気に高めるばかりでなく、英語圏でのアカデミアにおける作法を学ぶ機会にもなるでしょうから、結果として大学院留学の良い準備となるでしょう。近年では、官民揃って給付型奨学金が充実してきているので、交換留学は容易に実現できるようになりました。

 ですが、金銭や健康の問題のために、必ずしも全ての学生が学部留学を経験できるわけではありません。私がその一例です(ただし、高校の頃にはアメリカに半年ほど交換留学していました)。もともと3回生の時にフランスのパリ政治学院(講義は英語です)に半年ほど留学する予定でしたが、2回生の後期に大病を患った結果、様々な奨学金に応募することができず、心身ともに疲弊していたこともあり、留学を断念しました。その頃、友人たちは世界の各地に交換留学していて、SNSを通じて見るかぎりでは充実した生活の様子を見るたびに、自分のことをぼんやり不甲斐なく思っていました。

学内にもチャンスは多々ある

 そこで、まさに月並みなアドバイスですが、学内の様々な機会を利用して、4年間を通じて長期的に語学力を養成することをお勧めします。私の場合、学内における以下の3種類の機会を通じて、英語での学術的な活動に親しむことができました。もちろん、大学から費用面での補助があるのでいずれも安価で、5万円以上の出費は発生していません。具体的には、①アメリカ名門大学の留学生向けプログラム、②社会学専修の国際ワークショップ、③文学部の専門科目です。

①アメリカ名門大学の留学生向けプログラム

図1. Young and Foolish (平安神宮にて)

 最初に紹介するのは、私が1回生の後期に参加していたKCJS(Kyoto Consortium for Japanese Studies, 京都アメリカ大学コンソーシアム)というプログラムです。KCJSとは、アメリカ名門大学の学生が京都に半年から一年間留学し、一般家庭にホームステイしながら、語学や日本研究の講義を受けることのできるプログラムです。加盟している13大学の中には、プログラムを主催するコロンビア大学をはじめ、ハーバード、スタンフォード、プリンストン、イェール、プリンストン、シカゴなど、留学に関心がある学生なら一度は聞いたことのある名前が並んでいます。現在、KCJSは同志社大学の中に活動拠点を置いており、日本研究の講義(英語です)には、京大もしくは同志社の学生が1コマにつき1〜2名参加することができます。受講料は1万円で、私が受講していたのは、京都の遺産を巡る言説を検討するという歴史学の講義でした。

 1回生の前期に良くも悪くも大らかな京大式の教育にすっかり馴染んでしまった私は、アメリカ式教育の驚異的な作業量に圧倒されてしまいました。講義は週2回あり、1回は京都市内の文化遺産に足を運び、もう1回は毎週50ページ程度の文献を読んだ上でのディスカッションでした。そのうえ、数本のレポートや期末のプレゼンテーションもあったので、京大で15コマ近く履修していた私は、周りの留学生が涼しい顔をしているのとは対照的に、大分苦しい思いをすることになりました。後になって、他の留学生がリーディングを全て済ませているわけではないと知った時には、さすがに肩の力が抜けてしまいました。

 結局、当時の自分なりに努力した甲斐もあって、とりあえずネイティブ・スピーカーの前で学術的な英語を使うことへの抵抗は減ったほか、教授や留学生と親しくなることができました。今でも彼らとは交流が続いていて、日本で働いている友人とは一緒に食事することもあります。大学院への出願時には、志望動機書や研究計画書の英語を丁寧に添削してもらい、心から感謝しています。

②東アジア社会学ジュニアワークショップ

 続いて紹介するのは、京大文学部の社会学専修が毎年夏休みにソウル大学・国立台湾大学と共催している東アジア社会学ジュニアワークショップです。このワークショップでは、毎年各大学が持ち回り形式でホストを務め、社会学専攻の学部生・院生が自分の研究に関するプレゼンテーションを行います。発表大会が始まる前に、数日間のフィールドトリップを通じてホスト国の社会問題について学ぶことができるのもワークショップの特徴です。私は2回生の時にソウルで、4回生の時に京都で参加しました。

 

図2. 発表する4回生の私

 このワークショップの特長は、何より東アジアにおける同世代の優秀な学生と交流できることです。まだ社会学のことを何も知らなかった2回生の頃は、完璧でない英語でも韓国や台湾の学生と何となく楽しく会話できることへの安堵が収穫となりました。ですが、多少なりとも学問的な関心が深まってきた4回生として参加すると、ワークショップは似たようなテーマや調査法に関心のある韓国や台湾の学生の発表を見て、自らの相対的な研究能力を把握する良い機会となりました。この時は、台湾大学の学生が非常に質の高い研究・プレゼンテーションを披露していて、私を多いに奮起させてくれました。また、私の研究発表にも韓国や台湾の学生が関心を持ってくれて、素直に嬉しい気持ちになりました。

 ちなみに、ソウル大学や台湾大学の先生方はアメリカPh.D.取得者ばかりなので、留学に関する相談を引き受けていただくこともできました。台湾大学のある先生が「私はアメリカに留学して最初の一ヶ月は一言も英語が喋れなかった。だからとにかくバーに行って友達を作った方がいい」と言うと、他の台湾大学の先生や、近くにいたソウル大学の先生が深く頷いていたのが印象深いです。残念ながら、私は下戸です。

③文学部の専門科目

 最後に紹介するのは、私が2回生の後期に履修していた文学部の専門科目です。この「英語論文作成法」という古式ゆかしい名前の講義では、言語学者の日本人教員が、英語圏の高校や大学で標準的に用いられるライティングのテキストを使って、懇切丁寧に学術英語の使い方を教えてくれます。京大では全学共通教育の一環でライティングの授業が初年次に必修となっていますが、カリキュラムが学生の専攻分野に対応しているわけではなく、私の場合はあまり教員も熱心ではありませんでした。一方、日本人学生の弱点を熟知した日本人教員が教えてくれる「英語論文作成法」は、動詞・冠詞の使い分けといったミクロな問題からパラグラフ・ライティングといったマクロな問題まで、自分の英語を受験英語から学術英語に切り替えるために必要な知識を一通り学ぶことができました。この講義を受講するまでは、自分の英語をネイティブ・スピーカーに見てもらうと一文でも数カ所の訂正を受けましたが、修了後には一段落がそのまま理解してもらえることもあるようになるほど、目に見えた成果が出ました。(逆に言えば、私のライティング能力はそこで留まってしまっています。)

おわりに

 以上、学術英語の運用力を高めるのに、必ずしも交換留学を経験する必要はないという体験談でした。私の個別の体験が直接の参考となる読者は限られていますが、①大学を通じて参加する学外プログラム②専門分野の国際交流シンポジウム③学部の専門科目を活用して、安価で学術英語の運用に慣れるという方法論は、比較的一般化できるのではないでしょうか。

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